連載きずな

 産経新聞西日本朝刊で連載してきた「きずな―三恵園日記」は、令和元年6月から「きずなNEWS」として模様替えし、新たにスタートします。

 事業団は、産経新聞社の社会貢献を目指して昭和19(1944)年に設立されました。社会福祉法人として、支援を必要とする人々のために幅広い活動をする「公益事業」と、障害のある人々を直接支援する「社会福祉事業」を2本柱としています。

 平成28(2016)年4月の改正社会福祉法の施行で社会福祉法人には地域における公益活動が義務付けられ、それまでより一層「地域福祉」「地域共生」を強力に推し進めるよう求められました。

 これを受け、きずなNEWSでは事業団が運営する施設の日常の表情を報告するだけでなく、施設と地域との交流、事業団の社会公益活動についても紹介していきます。

 平成22年6月からスタートした「きずな―三恵園日記」は23年10月、それまでの約1年半にわたる連載記事をまとめた「きずな-三恵園日記」として刊行され、26年1月には過去の記事から118の物語をテーマごとに編集した「障害者支援の1200日 ありがとう」として刊行されました。どちらも福祉現場の”ちょっといい話”が満載です。ご希望の方は事業団本部までお問い合わせください。

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連載きずな

【きずな「三恵園」日記】耳傾け10年、心通い合う

2016年05月17日

 生活介護事業所「こすもす」(池田市)の利用者、文也さん(29)=仮名=は午後のひとときを大好きな雑誌を眺めて過ごす。
 通い始めた10年前は、今のような落ち着きは想像できなかった。
 文也さんを長年診てきた医師は「ずいぶん変わりましたね。まさかこれほど言葉が出るようになるとは」と、驚きの声を上げた。しかし、深水雅士支援員は「文也さんが変わったのではなく、周囲が彼のことを分かるようになっただけ」と振り返る。

■じっくり聞き取ろう
 通所後しばらくは、環境になじめず、たびたびパニックに陥った。何か伝えたいようだったが、言葉は不明瞭(ふめいりょう)。途方に暮れた支援員らは「まずはじっくり聞き取ろう」と決め、全員で文也さんを観察し、情報を共有した。
 ある日、文也さんが「あーしゅー、あーしゅー」と何度も叫ぶのを聞いて、支援員らは話し合った。
「外出行事の前になると落ち着かない。何か伝えたいのでは?」「『ガイシュツ(外出)』って言っているのでは?」
 文也さんは自分が外出できるのか知りたくてたまらず、声を発しているのかもしれないと、支援員らはようやく気持ちを探り当てた。

■「分かってほしい」に寄り添う
 「分かってほしい」という文也さんの心の叫び。それに応えられるまで3年かかった。「分かってほしい」に寄り添うと、文也さんは落ち着きを取り戻し、口に出す言葉が日に日に増えた。
 5年がたつころには、文也さんは壁に掛かったカレンダーを指さし、月の予定を支援員に確認するようになった。スケジュールが分かると、行事を落ち着いて待てるようになり、パニックも減った。
 日々の活動の中で可能性の芽を見つけ、根気よく寄り添う支援。10年はあっという間だった。
                                                 (企画推進本部 和田依子)

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